静かな光と陰が、家族を見守る

陰の住居

住居とは、家族の関係や感情の波を受け入れる器である。そうであれば、住居はむしろ陰に支配されている方が良いのではないか。陰は良いときも悪いときもそっとそこに佇み、目立たず、主張せず、ただ家族を見守る。そんなことを考えながら設計した。
ほぼすべての壁は凹凸のある黒い塗装で仕上げられ、外から入る光を少しだけ拡散する。この光のあり方は、日本の伝統的な家屋に通ずる。明快な光ではなく、鈍く柔らかい静かな光である。日本的な住居の光の質と様相を、鉄筋コンクリートでできた近代的なマンションの中で表現できないかと考えた。
天上の高さを確保するため現した大きなコンクリートの梁は存在感があり、新しく設ける要素が均質なものでは、その量塊感と時間を経た強さに負けてしまう。そこで、木、石、アルミ、鉄、左…さまざまな素材を散りばめ、乱雑な調和を生み出すことを狙った。
リビングの一画にはガラス張りの子ども部屋を配置した。ブラインドとロールスクリーンにより、自らの意思で視線を遮ることができ、ガラスが子どもと親の関係調整装置となる。単一の関係性しか生まない「個室」ではなく、その時の感情や気分によって関係性を変えられる仕組みをつくった。

DETAIL

  • 所在地 東京都三鷹市
  • 用途 住居
  • 規模 マンションの一室
  • 延床面積 80.28㎡
  • 設計監理 蘆田暢人建築設計事務所 
    担当:蘆田暢人
  • 施工 大森建築株式会社 担当:大森康司
  • 写真 繁田諭