建築、土木、エネルギーを一筋につなげる
松之山温泉プロジェクト
新潟県十日町市松之山温泉。全国有数の豪雪地帯である。ここでの生活は雪との闘いであった。大量の雪はまちから彩りと安らぎを奪う。外部空間につくられる生半可なものは雪に蹴散らされてしまう。そんな場所で「景観」などといったまちの彩りについて考える余地はなかった。
温泉というこの場所特有のエネルギーを利用し、雪との共存を形にしながら、それを土木と建築とにシームレスに繋げ、この地域に今までできなかったまち並みをつくること。雪と闘うことから、その価値を再構築し、この地域のアイデンティティを強化すること。このプロジェクトではそのことを強く意識している。
まちづくりには終わりはない。継続的にプロジェクトは動き続けている。ひとつひとつの雪国の知恵が、新しいデザインとまちなみに形となってあらわれることを目指している。
HISTORY
98℃の温泉と3mの積雪
98℃の高温で自噴する松之山温泉は、郷と郷がトンネルで結ばれた昭和60年代まで、陸の孤島の異名を取った豪雪地域である。夏には大勢の湯治客をお迎えする温泉地であったが、冬季は交通が途絶えてしまうため、夏稼いだ分を冬に食い潰す生活を長く続けてきた。ギリギリの生活の中では景観という観点など地域住民に生まれてこなかったのは当然であり、とにかく目の前の雪を消し去りたいだけだった。 ただそのお陰で、里山の自然との共生共存が脈々と営まれ、独自の生活や食文化の価値が根付いた。
LOCATION
海水と泥岩を含む地層
松之山の地層は度重なる火山活動によって海水が浸水し、現在の日本海に沈んだものが隆起して陸地となった。海水を含む松之山の地層は松之山温泉の原点であり、その化石海水がジオプレッシャーによって温泉として湧出している。 その地層は泥岩でできており、そのことが地滑りが多く、緩やかで水もちの良い農業に適した松之山の地形を作り出している。
DETAIL
PLANNING
雪との闘いから共存へ
この地域は、官民協働で進められている「雪国観光圏」の中に含まれ、地域特性を活かした観光とまちづくりの融合を目的に様々な取組みが進められている。 この地域は古くより、平年でも3~4mにもなる積雪の中での生活を営んでおり、その雪をどのように克服するかが大きな問題であった。松之山温泉は日本三大薬湯にも数えられる豊かな温泉資源があり、2010年よりその温泉を利用した温泉バイナリー発電の実証試験が環境省によって行われている。その事業に付随して2014~2015年にかけて、道路面の雪を消雪するシステムが導入された。バイナリー発電の作動媒体である40℃程度の水によって河川の水と熱交換を行い、冬場に散湯するシステムである。
VISION MAKING
グランドビジョンをひとつひとつ実践する
2013年から2014年にかけて、温泉街の方々とワークショップを重ね、松之山の未来の姿、温泉街がどう在るべきかを議論した。2014年に松之山温泉グランドビジョンとしてまとめた。そこからひとつひとつ計画を実行に移している。温泉街の人々全員でビジョンを共有することにより、ブレのない価値観の元で計画を進めることができている。
ワークショップ
対話の中からビジョンを生みだす
ワークショップでは、松之山の雪の特質が構築物にどのような負荷をかけるか、これまでの生活などが消雪パイプによってどう変化するか、どのような新しい価値を生み出せるかなどを議論した。
消雪施設建屋
越後杉の雪囲い
道路の消雪システムの機械を格納する小屋である。越後杉の足場板を並べる方法は、この地域での「雪囲い」の形式にならったものであり、雪国ならではの姿となることを意図している。
街路灯
徹底的に雪を積もらせない
積雪時に照明柱に雪が積もることを防ぐため先端部を円錐型としている。ポールは雪の水平荷重を考慮して全体的に太くしながらも、中央部をくびらせることでシャープな印象となっている。
醸す森
雪国の風土が生んだホテル
湯治BAR
観光案内所を兼ねるカフェバー
ひなの宿 ちとせ 改修
酒の宿 玉城屋 改修
醸すカフェ
醸す森ヴィラ
-
全体計画・建築
蘆田暢人建築設計事務所
担当:蘆田暢人、張賀鈞 - アートディレクション N37 担当:フジノケン
- 構造監修(消雪施設建屋) 村田龍馬設計所 担当:村田龍馬
- 施工(消雪施設建屋) 松里建設・高橋組
-
施工(街路灯)
志賀電設
山田照明・ヨシモトポール(街路灯製作)
地形データの画像は『3Dカシミール』で作成 http://www.kashmir3d.com/ しています。